
音で物語を紡ぐために、生まれてきたひと。私の中でのジェニー・ルイスのイメージは、一言で言うとそういうことになる。彼女の曲は聴くたびに、狂おしいほどに豊穣なストーリーが立ち上る。
06年のソロ・デビューよりもずっと前からライロ・カイリーのフロント・ウーマンとしてインディーズ/オルタナ・カントリー界ではすでに破格の人気を得ていたジェニーだけれど、ソロ作品を作ってようやく伝わる/伝えられることもあるのだろう。
なにしろ、ライロ・カイリーの作品では、彼女が子役女優として歩んできた際に得た心の傷や、その鋭すぎる視点について、意識させられたことは一度もなかった。
昨年9月にリリースされたジェニーのセカンド・アルバム『アシッド・タン』の、リリース直前にパイロット風に公開されたタイトル・トラック"アシッド・タン"にまつわる映像がある。きっと、彼女のMySpaceなどでご覧になった方もいるだろう。
最初に見たとき、爆笑した。
登場人物は、ジェニーと、デス・キャブ・フォー・キューティーのフロントマンであるベン・ギバードのみ。たくさんの風船を持って、新作が出来たって聞いたと言いつつ、満面の笑顔とともに、お祝いにやってきたベンギバ。パーティーか何かを期待していたのだろうが、そうではないからこそジェニーはちょっと困惑顔。早とちりを恥じるように、さびしげな顔で帰ろうとするベンギバ。
「ちょっと待って、新曲があるのよ」とベンを部屋に入れ、ジェニーがおもむろに弾き始めたのは"アシッド・タン"--そんな内容だ。
ベンギバの別ユニット、ポスタル・サーヴィスにはジェニーが参加していたわけだし、06年にリリースした初ソロ・アルバム『ラビット・ファー・コート』にベンギバはもちろん、その作品のリリース元であったレーベル、Team Loveを運営するコナー・オバースト(ブライト・アイズ)らインディーズ人脈がゲストとして名を連ねていた。ゆえに、あのベンギバとの映像はそんな面々に愛されるジェニーの、日常を垣間見せるようで本当に素敵だった。肩に力を入れることなくポロンとギターやピアノを鳴らしながら、内なる物語を通過儀礼の如く口に乗せ、そしてジェニーは外側へと発していく。あくまで自然に。
たぶん、その作品にあるゴスペルやカントリーやウエストコースト・ロックやソウルの要素も、彼女はあえて「モダナイズ」なんて意識のないまま生みおとしているような気がする。物語と声と曲とサウンドのあまりに見事な調和は、まさに、大自然が意図せぬまま生みだした絶景のように、ただ、そこにあるだけで感動的なのだから。
06年の来日時には、両脇にワトソン・ツインズによる見事なコーラス隊を従えていたジェニー。しかし最近のライヴ映像を見る限り、多くの視覚要素をそぎ落とした、シンプルなバンド編成になっているようだ。
夕暮れ時のビーチで耳にする、極上の物語。心が震える瞬間が、確実にそこにはある。
(妹沢 奈美)

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